試験の概要

介護福祉士実務者研修のカリキュラム

Aさん

昔は、実務経験3年あれば介護福祉士試験が受けられたのに、
なんで「実務者研修」を受けなければいけなくなったのですか?
正直、お金もかかるし時間的にも負担です。

ポテト

そうですね。そのような声はたくさん聞きます。
ここでは、実務者研修の導入の背景や、どんな研修なのかを解説していきますね!

実務者研修は、たしかに昔と比べれば負担は大きくなっていますが、介護福祉士の質を高めることで、社会的な評価を高くしたり、処遇改善につなげたいという目的もあります。

受講の負担軽減の措置などもありますので、しっかり確認して、効率よく受講できるようにしましょう。

この記事でわかること
  • 介護福祉士実務者研修の内容について
  • 介護福祉士実務者研修がなぜ必要になったのか
  • この研修を受けるとできること

介護福祉士実務者研修とは

3年以上の実務経験者が、介護福祉士国家試験を受験するために必要な研修です。

平成28年度の国家試験から必須となりました。

介護職員として仕事をするだけでは、なかなか学びにくい制度的なことや介護過程や認知症などの専門的知識などを学ぶことができます。

期間は6カ月以上、授業時間数は450時間以上と設定されていて、様々な種類(昼間・夜間・通信(一部面接授業あり))で受講することができます

介護福祉士実務者研修の導入の経緯(背景)

では、なぜこの研修が国家試験の受験に必要となったのかを見ていきましょう。

平成19年の社会福祉士及び介護福祉士法の改正で、今後高齢化が一層進むこと、社会的課題にもなっている認知症高齢者に対するケアの対応が必要だということなどの背景から、これからの介護福祉士のあるべき姿を整理する過程で導入されました。

平成19年法改正時における介護福祉士のあるべき姿

  1. 尊厳を支えるケアの実践
  2. 現場で必要とされる実践的能力
  3. 自立支援を重視し、これからの介護ニーズ、政策にも対応できる
  4. 施設・地域(在宅)を通じた汎用性ある能力
  5. 心理的・社会的支援の重視
  6. 予防からリハビリテーション、看取りまで、利用者の状態の変化に対応できる
  7. 多職種協働によるチームケア
  8. 一人でも基本的な対応ができる
  9. 「個別ケア」の実践
  10. 利用者・家族、チームに対するコミュニケーション能力や的確な記録・記述
  11. 関連領域の基本的な理解
  12. 高い倫理性の保持

この「あるべき介護福祉士の姿」のために、介護福祉士の基礎的能力の向上が必要であるとされ、養成施設のカリキュラムが、2年で1650時間のカリキュラムを1800時間に増やすことになりました。

その一方で、実務経験ルート(現場経験3年以上)について、「即戦力としては期待できるが、制度面・理論面について教育機会が欠けている」という議論がありました。

そのようなことから、利用者への説明能力を高め、状態像に応じた根拠ある介護の実践が可能となるよう実務経験ルートにも一定の研修を必要とすることとなりました。

これが「介護福祉士実務者研修」です。

しかし、人材不足に加え、働きながら研修を受けることは実務経験ルートで介護福祉士合格する人にとって負担でもありました。

そこで、平成23年の改正時に以下のような負担軽減措置がされています。

  1. 受講期間の短縮(600時間→400時間+新たに医療的ケア50時間を追加(=450時間))
  2. すでに履修した科目の読み替えができる仕組みを導入
  3. 通信課程の活用(面接授業は、一般的に45時間+医療的ケアの演習のみ)等

②の「読み替えができる仕組み」というのは、すでにホームヘルパーや介護職員初任者研修など他の研修を受けていると、その科目は受けなくていい(免除)ということです。

介護福祉士実務者研修の内容

では、実際に介護福祉士実務者研修でどんなことを学ぶのでしょうか。

細かく見てきましょう。

実務者研修の概要

到達目標

  • 幅広い利用者に対する基本的な介護提供能力の修得
     ※介護福祉士養成施設(2年以上の養成課程)における到達目標と同等水準
  • 今後の制度改正や新たな課題・技術・知見を自ら把握できる能力の獲得を期待

目的

  1. 介護福祉士養成課程のうち、実務経験のみでは修得できない知識・技術を中心に構成。
  2. 原則として、科目をⅠ・Ⅱに分割。既存研修による科目単位での履修認定を認める。
    Ⅰ:基礎的事項(就業初期の段階で受講することが望ましい事項)
    Ⅱ:応用的事項(知識・技術の効果的な定着・向上を促す観点から、一定の実務を経た後に受講することが望ましい事項)
  3. 多様な教育主体によって教育が担われる(科目単位での履修認定を認める)ことから、教育水準を担保するため「到達目標」を規定し、基準化。

面接授業について

  • 面接授業の時間数は、最低「45時間(:応用的な事例を用いて実践力を要請するケーススタディ)、介護技術の評価、通信教育等で修得した知識の修得度の確認」+α(:医療的ケアのうち演習)。
  • 他の学校・養成施設、介護実習Ⅱを行う施設・事業所に実施させることが可能。

通信課程での評価

  科目ごとにレポート(課題)を提出し、添削指導、評価。

実務者研修の教育内容について

実務者研修は、全科目合計450時間の研修です。

ただし、導入経緯のところでも触れたように、すでに履修した科目を免除することができます。

実務者研修の教育内容

教育内容 時間数
人間と社会 40
  人間の尊厳と自立 5
 -
社会の理解Ⅰ 5 35
社会の理解Ⅱ 30
介護 190
  介護の基本Ⅰ 10 30
介護の基本Ⅱ 20
コミュニケーション技術 20
生活支援技術Ⅰ 20 50
生活支援技術Ⅱ 30
介護過程Ⅰ 20 90
介護過程Ⅱ 25
介護過程Ⅲ(スクリーニング) 45
こころとからだのしくみ 170
  発達と老化の理解Ⅰ 10 30
発達と老化の理解Ⅱ 20
認知症の理解Ⅰ 10 30
認知症の理解Ⅱ 20
障害の理解Ⅰ 10 30
障害の理解Ⅱ 20
こころとからだのしくみⅠ 20 80
こころとからだのしくみⅡ 60
医療的ケア 50
合計 450

実務者研修に読み替え(免除可能)な資格と科目

実務者研修については、訪問介護研修、介護職員基礎研修等のほか、地域の団体等で実施されている研修で、一定の内容・質、時間数が担保されている研修を修了した場合には、実務者研修の実施者の判断により、科目単位での修了認定を認めることが可能となっています。

免除される科目と免除後の実務者研修の受講時間については、以下を参考にしてください。

教育内容 介護職員初任者研修 訪問介護員研修 介護職員基礎研修 その他の
全国研修
1級 2級 3級
人間の尊厳と自立  
社会の理解Ⅰ  
社会の理解Ⅱ        
介護の基本Ⅰ    
介護の基本Ⅱ      
コミュニケーション技術        
生活支援技術Ⅰ  
生活支援技術Ⅱ    
介護過程Ⅰ    
介護過程Ⅱ        
介護過程Ⅲ(スクリーニング)          
発達と老化の理解Ⅰ        
発達と老化の理解Ⅱ        
認知症の理解Ⅰ     認知症実践者研修
認知症の理解Ⅱ       認知症実践者研修
障害の理解Ⅰ      
障害の理解Ⅱ        
こころとからだのしくみⅠ    
こころとからだのしくみⅡ        
医療的ケア           喀痰吸引等
研修
免除後の受講時間 130 95 320 420 50  

あくまでも、実務者研修の実施者の判断となりますので、詳細は「実務者研修の実施者」にお問い合わせください。

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実務者研修はどんな人が受けられるの?

実務者研修のの受講には、特に要件はありません。

年齢や学歴に関係なく、無資格でも介護未経験でも誰でも受けることができます。

しかし、実務者研修の目的にもあるように、各科目のⅡは「知識・技術の効果的な定着・向上を促す観点から、一定の実務を経た後に受講することが望ましい事項」と記載があるように、未経験者では少し難しい研修内容といえます。

介護の資格としては、「介護職員初任者研修」の上位に位置付けている資格でもありますので、キャリアアップを考えながら受講を考えるのがおすすめです。

介護職員初任者研修ってどんな研修?

介護福祉士実務者研修受講のメリットとできること

最後に、介護福祉士実務者研修の受講メリットと修了するとできることを解説していきます。

介護福祉士実務者研修受講のメリット

資格手当などにより給料がアップします

給料や資格手当については、就職先によりますが、多くの施設で無資格者より実務者研修修了者のほうが給料が高く支給されています。

調査の平均勤続年数に差はありますが、実務者経験修了している人のほうが無資格者より給料が高いという調査結果が出ています。

介護の人材不足により、無資格者でも施設で歓迎される傾向にありますが、一定の研修を受けている人のほうがより歓迎されます。

現場では学ぶことが難しい専門知識や技術が習得できます

実務者経験導入の経緯にもあったように、介護の現場で働いているだけでは制度面や理論面ではなかなか身につけることができない部分が多いです。

身につけられる知識は現場での経験に偏りがちで、介護全体の知識は自ら学ばない限り習得が難しいところもあります。

また、利用者の要介護状態も多様化していますので、専門知識が求められる場面も多くなっています。

このような流れで、介護職には実施が認められていなかった医療行為(喀痰吸引・経管栄養)が、一定の条件を満たすことで行えるようになりました。

それだけ、介護現場での医療的ケアのニーズが増しているということです。

実務者研修には医療的ケアの科目もあります。

医療行為を行うためには、「喀痰吸引等研修」を受講する必要があります。

この研修には「基本研修」と「実地研修」に分かれていますが、実務者研修を修了すると「基本研修」は免除となりますので、「実地研修」のみ受講すれば現場で医療行為が行えるようになります。

就労先などの可能性が広がります

日本では労働力人口の減少から、介護現場に限らず、全産業で働く人が足りなくなります。

その中で、令和4年版「厚生労働白書」によると、2040年には医療・福祉分野の就業者数が96万人不足する見込が示されています。

介護職だけでなく、看護職も足りなくなる一方、高齢化により利用者の重度化はますます進みます。

地域によっては医療行為を行える介護職の需要が高までしょう。

より専門性の高い技術を身につけ、就職先の可能性を広げましょう

介護福祉士実務者研修修了でできること

介護福祉士試験を受験できる

介護福祉士実務者研修は、介護福祉士試験を受験するために必須の研修です。

この研修修了で、介護福祉士試験を受験することができます。

サービス提供責任者になれる

「サービス提供責任者」とは、介護保険法「指定訪問介護事業所」、障害者総合支援法「指定居宅介護事業所」などに配置される責任者です。

訪問介護計画の作成や訪問介護員に対する指示・指導などを行います。

訪問介護事業所では、サービス提供責任者の配置が必須となっているため、人材獲得に必死な事業所も多いです。

まとめ

今回は、「介護福祉士実務者研修」について解説しました。

介護福祉士の資格取得方法の見直しの流れで、国家試験を受験する実務者研修に義務付けられた研修ですが、国家試験の合格率からも一定の成果がでているのではないでしょうか。

介護福祉士国家試験を目指す人だけでなく、一定の知識を身につけキャリアアップしていきたい人にもぜひ受講をおすすめしたい研修です。

導入当初より環境も整ってきていますので、ぜひチャレンジしてみてください。