介護福祉士の筆記試験は12科目。
介護保険制度などの制度的なものから、疾病、医療的ケア、コミュニケーション技術など範囲も広いです。
時間をかけて確実に知識を蓄積する勉強をするのであれば、あらゆる参考書を購入して勉強をするのがいいと思います。
しかし、できるだけ効率的に勉強をしたいですよね?
実は、介護福祉士の試験勉強は、やればやるほど混乱してしまう人がいます。
そんなことにならないために、試験勉強を始める前に混乱しやすい「落とし穴」をおさえましょう。
事前に知っておくだけで、効率的な試験勉強にもつながりますよ。
- 介護福祉士の試験勉強はなぜ混乱しやすいのか
- 介護福祉士試験の性質
- 試験勉強で気をつけておきたいこと
落とし穴①|設問形式
残念ながら試験に合格しなかった人が、こんなことを言っていました。
なんで介護福祉士の試験は、紛らわしい?
運転免許の試験のような内容にしたらいいのに…
運転免許の学科試験は、合格点が90%。
それに比べて、介護福祉士の筆記試験は、合格点60%前後。
普通に考えたら、合格点が高い運転免許の学科試験のほうが間違えられない分難易度が高いと感じますが、介護福祉士試験のほうが難しく感じてしまう。
今回は、分野も近い「看護師試験」と比較をしてみましょう。
看護師試験と介護福祉士試験の比較
看護師試験と介護福祉士試験を比べてみました。
試験の難易度を、資格の偏差値をランキング形式で紹介している「資格の取り方」を参考にすると、看護師の偏差値は41、介護福祉士の偏差値は45。
介護福祉士のほうが少し偏差値が高いとされています。
しかし、図の比較からもわかるように、看護師試験のほうが、合格基準が高く、問題数も倍以上。
本来であれば合格基準が高いので、看護師試験のほうが難しいはずです。
しかし、なぜ介護福祉士試験のほうが偏差値が高いのでしょうか。
ここで重要なのは、「何を問われている」試験なのかをおさえることです。
これについては、厚生労働省の「社会福祉士及び介護福祉士国家試験の在り方に関する検討会(平成20年12月26日)」「介護福祉士国家試験の今後の在り方について(令和2年3月27日)」から確認することができます。
なお、第35回試験からの出題数の変更等は、令和3年3月の報告書の提言を受けたものです。
介護福祉士の在り方とは?
「介護福祉士試験の在り方に関する検討会」報告書の内容を確認しましょう。
試験の基本的性格
- 介護福祉士国家試験は、基本的に、「介護」を実践する専門職として、必要とされる基本的な知識及び技術が網羅的に備わっていることを確認・評価するものとして位置付ける。
- また、養成課程における教育内容の標準化を図るとともに、充実を促進する機能も有する。
- このような点から、専門職として実践を行う上で必要不可欠な知識及び技術に焦点を当てて出題すべきであり、実践の場面での判断力を問う問題であることを意識しながら、問題作成が行われることが必要である。
出題形式
- 単純な知識の想起によって解答できる問題(タクソノミーⅠ型)だけでなく、設問で与えられた情報を理解・解釈してその結果に基づいて解答する問題(タクソノミーⅡ型)や、理解している知識を応用して具体的な問題解決を求める問題(タクソノミーⅢ型)を出題すること
- 一問一答形式の問題に簡潔な状況設定を付し、状況の判断能力を問う短文事例問題を出題すること
- 一つの事例に基づいて、4領域にまたがる知識を用いて、総合的・多面的な理解力や判断力を問う総合問題を出題すること
令和2年の報告書では、現行の五肢択一を基本とする多肢選択形式で、イラストや写真、図表、グラフ等の視覚素材を活用し、上記①~③をふまえた出題形式は今後も継続されるとされています。
さらに、
- 短文事例問題及び総合問題については、介護過程の展開を踏まえ、介護現場で必要となる理解力や判断力を問う出題や、求められる介護福祉士像を想起させるような出題となるよう、一層の充実を図り、試験全体で介護福祉士としての適性を判断する必要がある
と、追加で記載がされました。
これらの報告書からもわかるように、単純な知識で回答できる問題ではないということ。
知識を応用したり、活用したり、実践での判断力を問う試験を試験委員は作成するということです。
また、良質な試験問題を確保する観点から、一部プール制の試験問題が導入されており、おこれについても、今後も継続することが望ましいとされています。
単純な知識の想起で回答できる問題ではないというのは、以下の試験問題を見てもわかります。
マズローの欲求階層説に関する問題です。
基本的には、看護師試験にあるような5つの欲求についてテキストで知識をつけていきます。
しかし、介護福祉士試験では、「実際にどんな欲求なのか」というところまでイメージできないといけません。
また、「どんな欲求」かはいくらでも例えることができます。
この介護福祉士の設問の選択肢を暗記しても、次は同じ例えが出るとは限らない。
これが、介護福祉士試験の難しいところです。
介護福祉士試験の出題形式を確認しよう
ただの知識では解けない試験問題であることに加え、試験が難しく感じる理由があります。
難しく感じる大きな理由の一つが、「答えが1つではない」ということです。
「答え」とは「正解」ではなく、別ものとしてとらえてください。
介護福祉の分野は、答えは1つではないことが多い分野です。
試験の難易度はさほど高くない試験ですが、「答えが1つではない」ことで、難しさを感じ挫折をしてしまう人が多いのです。
では、答えが1つではないとはどういうことでしょうか。
例えば、利用者の介護を考えてみましょう。
Aさん、Bさん、同じ年齢、同じ要介護レベル、同じ疾患だとしましょう。
それでも、Aさん、Bさん同じ介護はしませんよね。
Aさん、Bさんの希望や、周辺の環境によってどのような支援をするのかは変わってきます。
このようなことから、介護福祉士試験は、「最も適切なもの」を選ぶ設問が大半を占めています。
第34回試験の出題形式を見てみると、76%が「最も」を選ぶ設問でした。
この設問の形式により、確実に答えが1つに絞りにくく、答えに迷ってしまう人がいます。
出題形式に惑わされないことが、合格につながる
つまり、介護福祉士試験が難しく感じるのは試験の性質上であるといえます。
すっきり答えを1つに絞るということが難しい分野だから仕方がないこと。
逆に、適切なもの、正しいものは知識をつけていれば、解答がわかりますし、大半を占めている「最も」の設問で、いかに正解を選べるかが合格へつながります。
ここをしっかり試験対策で補っていきましょう。
落とし穴②|制度改正
落とし穴の2つ目は制度改正です。
介護保険制度であれば、3年に1回は介護保険法の改正が行われます。
また、急速な高齢化やニーズの多様化に対応するため、常に新しいサービスが出来たり、一緒になったり、なくなったり、延長措置となったりと変化をし続けています。
これが混乱する1つにもなります。
参考として、介護保険法の改正について見てみましょう。
第1次改正 (2005年、2006年施行) |
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第2次改正 (2008年、2009年施行) |
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第3次改正 (2011年、2012年施行) |
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第4次改正 (2014年、2015年施行) |
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第5次改正 (2017年、2018年施行) |
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第6次改正 (2020年、2021年施行) |
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この表だけ見ても、本当に変化が多いですよね。
2018年に新設された「介護医療院」。
これも、本当に行ったりきたり。
介護医療院新設までの流れ
介護保険法施行時に介護療養病床を「介護療養型医療施設」と位置付けたものの、2006年介護療養病床の2011年度末(2012年3月)までの廃止が決定。
2008年5月に「介護療養型老人保健施設」を創設し、転換を進めるものの、転換が進んでいない状況を踏まえ、廃止・転換期限を2017年度末(2018年3月)まで延長。
2018年に「介護医療院」新設にともない、介護療養型医療施設の経過措置の期限は2024年3月まで延長。
現在は、2024年3月で完全廃止の予定となっています。
皆さんが受験をしようとしている介護福祉士試験についても、介護福祉士養成施設卒業者への国家試験の義務づけが経過措置延長の状態が続いています。
このように、制度の改正を追っていても、いったい今どうなってるの?と思うことばかり。
介護保険だけでなく、関係する法律の改正や新たにできる法律などもありますので、介護の業界にいる時間が長いほど、混乱しやすくなります。
制度に関する過去問にチャレンジする場合は、過去3回以前のものは注意してください!
制度改正は、何かしらの課題があって行われるもの。
今のトレンドにもなりますので、試験でも問われやすいです。
そこをしっかりおさえれば大丈夫です。
落とし穴③|分野ごとに微妙に違う制度
介護福祉士の試験でも、高齢の制度と障害の制度があります。
障害の分野1つをとっても、障害児と障害者を考えないといけません。
障害児を考えるときは、児童分野の法律も関係してきます。
それぞれの分野、似ているようで微妙に少しずつ違いますね。
これが勉強をしていて混乱するポイントでもあります。
例えば、対象者の定義。
法律・条数 | 定義 |
介護保険法 (第7条) |
3 この法律において「要介護者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一 要介護状態にある65歳以上の者
二 要介護状態にある40歳以上65歳未満の者であって、その要介護状態の原因である身体上又は精神上の障害が加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病であって政令で定めるもの(以下「特定疾病」という。)によって生じたものであるもの
4 この法律において「要支援者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一 要支援状態にある65歳以上の者
二 要支援状態にある40歳以上65歳未満の者であって、その要支援状態の原因である身体上又は精神上の障害が特定疾病によって生じたものであるもの
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障害者基本法 (第2条) |
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
二 社会的障壁 障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。
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身体障害者福祉法 (第4条) |
この法律において、「身体障害者」とは、別表に掲げる身体上の障害がある18歳以上の者であつて、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう |
知的障害者福祉法 | 定義の規程なし |
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 (第5条) |
この法律で「精神障害者」とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう。 |
発達障害者支援法 |
この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。 |
児童福祉法 (第4条) |
この法律で、児童とは、満18歳に満たない者をいい、児童を左のように分ける。
一 乳児 満1歳に満たない者
二 幼児 満1歳から、小学校就学の始期に達するまでの者
三 少年 小学校就学の始期から、満18歳に達するまでの者
② この法律で、障害児とは、身体に障害のある児童、知的障害のある児童、精神に障害のある児童(発達障害者支援法(平成16年法律第167号)第2条第二項に規定する発達障害児を含む。)又は治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であつて障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)第四条第一項の政令で定めるものによる障害の程度が同項の厚生労働大臣が定める程度である児童をいう。
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特別児童扶養手当等の支給に関する法律 (第2条) |
この法律において「障害児」とは、20歳未満であつて、第五項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にある者をいう。
2 この法律において「重度障害児」とは、障害児のうち、政令で定める程度の重度の障害の状態にあるため、日常生活において常時の介護を必要とする者をいう。
3 この法律において「特別障害者」とは、20歳以上であつて、政令で定める程度の著しく重度の障害の状態にあるため、日常生活において常時特別の介護を必要とする者をいう。
4 この法律にいう「配偶者」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含み、「父」には、母が障害児を懐胎した当時婚姻の届出をしていないが、その母と事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含むものとする。
5 障害等級は、障害の程度に応じて重度のものから一級及び二級とし、各級の障害の状態は、政令で定める。
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あくまでも、一部です。
一部ですが、それぞれ定義が異なります。
ストレートで法律の定義を問われることはありませんが、事例問題では対象者の年齢やどのような障害があるのかなど示されます。
その人が受けられるサービスは、定義についておさえておく必要があります。
混乱しやすいですが、違いをしっかり確認しておくことで、間違いに気づきやすくなりますよ。
まとめ
今回は、介護福祉士試験の勉強で混乱しやすい「落とし穴」を3つお伝えしました。
つまづきやすい部分を事前に把握しておくことは、効率的な勉強にもつながります。
ぜひ、混乱しないように勉強を進めてください。